【第2話】社畜、育成完了

前回のあらすじ

僕は新卒で製造業の会社に入社した。
ブラックな香りを感じつつも、最初の仕事(ホース作り)を達成しやりがいを見出す。

社畜、育成完了

次の仕事

社会人最初の大仕事(ホース作り)を終え、僕は2年目になる。

4月の異動で1名抜け、僕が仕事を引き継いだ。
案件は5件あったが、そのほとんどが綿の仕事だった。


わた!!!!

※会社の製品はホースでも、綿でもない。

なぜ、わた?

製造ラインで発生する熱から作業者、設備を守るために綿を使うんだ。
この綿がアスベスト的な規制にかかるから代替品に切り替えよ!

なるほど…
僕は現場の作業者、綿工場のおばちゃんの肺を守るんだ!

さっそく実務に取りかかる。
まずは先輩に教えを乞おう。

業務の流れ

1)素材決定
2)発注
3)懸念点、評価方法を立案
4)企画書作成
5)管理者の承認
6)実使用テスト
8)OK-NGを判断

ふむふむ…
素材は前任から引き継いでいる。
懸念点は特に無く、たんたんと実使用テストを進めればいいかな。

管理者に企画書を説明しても、そんな案件あるんだ…
と興味は薄く、綿の何たるかを説明した。

さっくりと実使用テストに進む。

結果はOK
設備温度、使用後の外観も問題ない。

ミッションコンプリート。
見事にみんなの肺を守ったぞ。

他の綿も切り替えていこう。


ある日
朝礼に行くと、作業者がトラブル報告していた。

作業者「この部品が取れなくなってライン停止したんです」

管理者「今までこんなこと無かったけど…」

作業者「以前より綿が溶けてる気がします」

みんなの心の中(わた!!!!

早急に綿を戻すよう指示した。
綿にやられた!

その後、使用に耐える綿に至るまで、3回も同じことを繰り返した。

どんな業務も侮るとケガする
と心に刻んだ。


そして半年が過ぎた。

鬼パイセン登場

2年目の半ば、僕が綿職人になる頃。
人事異動で人員が半分になり、仕事を上から降ろしていく。

僕の綿も後輩に引き渡しだ。
キラキラの1年目に、綿を手渡すのは心苦しかった。

そして僕の担当が5→15件に増加
ギャーー!

数が増えたのもキツかったが、内1件のヤバ案件に落胆した。

ヤバ案件の内容

・製品不良が頻発する
・原因は10年以上不明
・技術員が現場につきっきり
・ミスると500万円損失
・ミスると次回までに対策報告
・一週間2回は製造する(土日も)


しかもこの案件は、仕事のデキる先輩(通称:鬼パイセン)が担当していた。

鬼パイセンでも苦しそうなのに…

翌日から走り回ることとなる。
どんな日常か覗いてみよう。

******************
製造開始
 ↓
隙間から製品を見る
 ↓
ヤバそう
 ↓
データ解析
 ↓
パラメータ調整
 ↓
製品を見る
 ↓
ヤバそう
 ・
 ・
 ・

製造は20時間は続く。
やっと落ち着いた…と途中で帰宅すると、枕元で携帯が鳴る。

現場「ヤバいんだけどー!」
ぼく「あーしてこーして下さい!」
ぼく(神よ!救いたまへ!!)

翌日、朝礼で500万円損失の報告。
鬼パイセンに怒られる。
******************

これの繰り返しだ。

さらに鬼パイセンは厳しい。
正論で詰めるタイプでぐうの音も出ない。

大人になってからは、

おこりタイプ

・手が出るタイプ
・机バーン音使いタイプ
・物バコーン八つ当たりタイプ
・大声張り上げタイプ

といったタイプに怒られてきた。
だいたい平気だった。

しかし正論タイプは何を返そうにも、自分の落ち度がくっきりと見えて苦しい。

休憩室でため息をつく僕に、1つ上の先輩が声をかけてくれた。

先輩「やられてたな」
ぼく「今日もやられました」
先輩「あんな時は透過させるんだ」
ぼく「とうか…ですか?」

先輩「自分がその場からスーッと消えそうになるのをイメージする。
すると相手の怒りが自分を通り抜けていくんだ。」

ぼく「なんかハンター×ハンターみたいっすね」
先輩「まぁ頑張り過ぎず…だな」
ぼく「分かりました」

謎の会話だったが心は軽くなった。

この時、残業は月に100時間ほど。
23時を回ってから帰る日々が続いた。

パートナーがメンタルに

2年目にはパートナー(ぐりさん)と一緒に暮らし始めていた。

ぐりさんも上司にいびられて苦しんでいた。
勤務中は横に居る上司と1対1だ。

・メールがおかしい
・これもできないのか
・はっ(鼻で笑う)

と詰める上司。

最初の1週間くらいは「あのやろー!!」と元気に愚痴を言っていた。

しかしある日、ぐりさんはついに泣いてしまった。
上司から「頭おかしいんじゃない?検査したら?」と罵られる。
ぐりさんは「若年性アルツハイマーかも…」と脳神経クリニックを受診した。

結果、特に異常なし。
しかし上司との状況、受け答えからメンタルと診断。

休職し、ホワイト職場へ転職した。

1対1で毎日怒られる続けるのはツライんだよ!

社畜、育成完了

ぐりさんが転職した頃、僕は3年目になった。

相変わらず、製品不良を出しては怒られるサイクルを繰り返している。

もうこれ以上の地獄はないだろう。
と踏んでいたが、甘かった。

隣の品質課が解体となり、品質管理の業務が降ってきた。
隣のクラスが全員転校する、くらいのインパクトだった。

どんなもんか、グラフで見てみよう。
まずは案件数から。

ぎゅーんって増えてる。
30件といっても、ホース30本作ればいいってもんじゃない。
ほとんどの案件が1ヶ月以上かかる。

グラフの色も鮮やかだ。
5色もある。
仕事の幅が広がるなんてもんじゃない。
広がり過ぎてちぎれてしまう。

次は人数

減りすぎやろ!
1年目とかはみ出すほど居るのに、みんなどこかへ行ってしまった。

最後は残業時間

ぎゅーんって増えてる。
きっと案件数と連動してるんだ。
ホップ、ステップ、ジャンプで今年は200時間くらいかしら。

会社にいる時間がさらに増える。
必然的に鬼パイセンに怒られる時間も増えた。
仕事が回らないフラストレーションから、言葉に力が入る。

叱責内容

・データ解析遅い
・トラブル時の判断悪い
・資料のロジックが変
・メールがなってない
・仕事の優先順位がちがう
・頭わいてるのか

疲れ切った身体と脳みそに響く。
メンタルになったぐりさんの気持ちが分かる。

もうだめだ!
泣いちゃう!!

その時だった。

(スーッと消えそうになるのをイメージするんだ)

この前やめた先輩の言葉を思い出した。

あれ?

平気だ。
鬼パイセンの言葉がすり抜けて耳に入らない。
「はい」「すみません」だけ言えばバレない。

僕は透過を体得した。

その日以降は、
怒られる→透過!
怒られる→透過!
のパターンでやり過ごした。

この頃、残業は150時間に達する。
翌朝5時に帰宅して、7時に出社なんて日もある。

会社ではネット接続のオン、オフで勤務時間を管理しており、残業60時間を超えると警告が出る。

休憩ボタンで調整する。
1日3時間けずる。
たまにバグで退社時間が入ってない時は、ラッキー。
5時間くらい削ったりして帳尻を合わせる。

みんなそうしてる。

僕は、社畜になっていた。

つづく

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